今季クール(2020秋期)のアニメはいつになく豊作でしたが、中でも一番出来が良くて抜きんでてた印象なのが「安達としまむら」でした。
アニメソムリエの資格を自認しているこの私が言うんだから間違いないというものです。異論は認めません。
アニメ「安達としまむら」が面白かった
原作がライトノベルだけあって良い意味でモノローグの言い回しがくどい。
逆に言えばキャラの心情を丁寧に言語化してくれてるので解りやすい。
淡々と進行する日常ものであり、主人公がJK二人で一見よくある萌え豚専用の観賞アニメではあるのだが、作品全体の雰囲気というか世界観が閉じていて実に心地良いのである。
ミニスカから覗く太ももを無駄にクローズアップする演出が画的に飽きさせないというサービス要素ももちろん魅力のひとつであるが、それだけではないということを検証していく。
百合嫌いでも楽しめたのは何故か
この作品は女子高生の安達としまむらが親友になっていく過程、もしくは恋人未満となる百合要素も含んでいるのだが、他の百合作品「シトラス」や「桜TRICK」等のように女子同士が男女の恋愛の如く肉体関係込みで愛し合うといった安易な刺激を売りにしたようなものではなく、今のところ手繋ぎやハグまでが安達の精一杯であり、基本的には交際初期の十代男女のもどかしくもくすぐったい、意思の確認とすれ違いと共有を主軸とした心理描写メインの作風であるところが品位を保ってる所以でもあり、百合嫌いの自分でも楽しめた要因ではないかと推察する。
陰キャ男子全員が安達に共感・感情移入できる理由
主人公の一人である安達は周囲から孤立したコミュ障の陰キャであり、基本誰とも仲良くならずに一人でも構わないという一匹狼タイプの人畜無害な天然キャラで、男性側の視点は完全にこちらとなる。
しかしふとした拍子に言葉を交わしてなんとなく仲良くなったしまむらという友人に対し特別な感情を抱き始めることで、苦悶しながらもこれまでの自分の殻を打ち破っていくことになる。
これはまさに初恋の症状であり、安達が男子であればありふれた高校生の恋物語であるのだが、安達は女子なので比較的イージーに距離を縮められるものの、ある一線を越えたリアクションを見せてしまうとしまむらに困惑(ドン引き)されてたしなめられてしまうのが肝であり面白い。
安達は自身をしまむらの犬であると自認しているところもまた、恋をしてその対象相手に白旗状態となってしまう片想いしてる側の典型的な象徴だ。
なので百合アニメであるにも関わらず、男性視聴者は容易に安達に感情移入してしまえるのである。
しまむらというモテ女のリアルすぎる生態
一方もう一人の主人公であるしまむらは、安達とは真逆で何もせずとも周りから人が集まるいわゆる愛され上手の人気者で、特段努力もせずに流されてるだけの自分なのにと違和感を持ちながらもイージーモードな状況に甘えて生きてきたタイプの屈折や葛藤の少ない恵まれた普通の女子だ。
しまむらは基本余裕があるので「来る者拒まず、去る者追わず」が信条にあるかのように、その時々と状況に応じて広く浅い友人関係を構築してきた。
安達に出会ってもそれは変わらず、安達ともつきあうし、他の友人たちともこれまで通り遊ぶ。
ただ他の人としまむらの違うところは、安達に対してもフラットであり、ちょっと変わっている安達を奇異な目で見る事もなく、寛容に受け入れる度量がある部分に安達は惚れてしまったのだと思われる。
しまむらはクールに人との距離を見渡しており、誰とも平等に接する代わりに、最後に自分の意思をしっかりと汲むこともちゃんと意識していて、意外と精神年齢が高い。
JK同士の友情ならぬプラトニックラブ
安達にとってしまむらはたった一人の親友であり、恋愛対象でもある。
一方しまむらは多くの友人に囲まれていて、誘われたら遊びにも出掛ける。
この不均衡な関係に苦悶する安達には深く共感できるのだが、この作品が秀逸なのはしまむら側の視点も疎かにせず描いてる点にある。
普通は業の深い安達視点の愛憎劇に陥りやすいのだが、想われてる側のしまむらの立場と心情も丁寧に描かれているので、安達側がいかにぶっきらぼうで滑稽で自分勝手に傷ついてるのかが客観的によく判るので、恋される側の温度を表現しているのがこれまでにない新しさかな、と。
しまむら視点で見てると安達の重さがホントに恥ずかしいんですよ。
私も好きになった人には必ず最後に「重い」と言われてフラれた経験が2度あるので、今ならしまむらを通して彼女等の心理的負担が理解できるだけに、見てると痛いんですよ。
でも安達は女子だから、プラトニックを貫けば親友でい続けられるのだから、ズルいなぁというか、嫉妬してしまいますね。
↓曲もすごく良いんですよ♪
【安達としまむら】君に会えた日/メリーゴーランド 試聴Ver.(2chorus)
左=しまむら 右=安達
安達としまむらは百合アニメなんかじゃない!
つまりまとめますと、「安達としまむら」は単なるJK同士の百合アニメなんかではなく、心の機微を丁寧に描いた友愛ものであり、女性でも安達にもしまむらにもそれぞれ共感できる部分が楽しめるし、男性だと単純に画面を見てるだけでも癒されます。
原作は「電波女と青春男」の入間人間氏なので、青髪の宇宙人少女の存在はご愛敬なのですが、リアリティのある世界観にファンタジー要素を無理矢理押し込めるような彼女のキャラはやはり邪魔で減点対象ではあるけれど、個人的には受け入れます。
度量の深いしまむらさんのように。
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